ダイナミックケイパビリティとは?VUCA時代でも安定した経営モデルを実現する方法

ダイナミックケイパビリティとは?
ダイナミックケイパビリティは端的に言えば「企業の変化」に関する理論です。
歴史的なグローバル企業は、これまで事業環境の変化に応じて大きく業態を転換し、生き残り、繁栄してきました。
現在は不確実性が高く環境変化が激しいVUCAの時代と言われており、このような環境下で企業は競争優位を持続させることは難しく、企業はその変化に対応し続けられる「変化の対応力」を持つことが求められるようになりました。
そこで活用できる理論がダイナミックケイパビリティです。ケイパビリティとは、企業が持つ様々な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報など)を活用し得る企業の力のことです。
同じリソースを保有していても企業によって結果が全く異なるのはケイパビリティの能力が異なるからです。ダイナミックとは、動的を意味します。つまり、ダイナミックケイパビリティとは環境の変化に合わせて絶えず様々な経営資源を対応させていていく企業の力を表します。

ダイナミックケイパビリティの重要性
ダイナミックケイパビリティが特に近年注目されている背景を踏まえ重要性について解説します。
1.急速な技術の進化
例えばデジタル技術やAI、IoTなどの進化は、事業モデルや産業構造を根本的に変えています。企業がこれらの技術変化に迅速に適応できるかが、競争優位を維持または獲得するための鍵となっています。
2.グローバル化の進行
グローバル市場の拡大や異なる文化・市場間でのビジネスの増加に伴い、企業は様々な環境下での適応能力を持つ必要があります。
3.市場環境の不確実性
政治的変動、経済的な危機、疾病の流行(例:新型コロナウイルス感染症)など、多くの不確実性が企業環境を取り巻いています。このような不確実性に対応するためには、企業がダイナミックに自身の能力を調整・再構築する必要があります。
4.消費者の期待の変化
消費者の価値観やニーズ、期待が急速に変化しており、企業はこれらの変化に迅速に対応する必要があります。
5.新しい競争者の出現
スタートアップ企業や異業種からの参入者など、従来の競争構造が変わりつつあります。これに適応するためには、企業が柔軟に戦略や資源を調整するダイナミックケイパビリティが求められます。
6.持続可能性と社会的責任
環境問題や社会的な課題への対応が、企業の競争要因として高まっています。これらの課題への適切な対応は、企業のダイナミックケイパビリティによってもたらされることが多いです。
ダイナミックケイパビリティを構成する3つの能力
ダイナミックケイパビリティを構成する能力はsensing(感知),seizing(補足), そしてtransforming(変革)があります。これらは、企業が変動する環境に適応し、競争優位を維持または獲得するための主要な活動として示されています。以下、それぞれの活動について詳しく説明します。
感知(Sensing)
- 概要: 組織が外部環境の変化や機会、脅威を探知・識別するプロセスです。
- 重要性: このステージでの探知能力は、市場のトレンド、新しい技術、競争者の動向、消費者のニーズの変化など、ビジネス環境における新しい機会や脅威を早期に特定するために不可欠です。
- 具体的な取り組み: 市場調査、技術監視、競争者分析、ステークホルダーとの対話などが含まれます。
捕捉(Seizing)
- 概要: 感知された機会を実際にキャッチし、それを利益に変えるための戦略やアクションを定義・実行するプロセスです。
- 重要性: ただ機会を感知するだけでは不十分で、それを商業的成功に結びつけるための適切な資源の投入や戦略的決定が必要です。
- 具体的な取り組み: 新製品やサービスの開発、新しいビジネスモデルの採用、戦略的な投資やM&Aの実行などが含まれます。
変革(Transforming)
- 概要: 企業が既存の資源や能力を再構築、再編成、または放棄するプロセスです。これにより、企業は新しい環境や競争条件に適応します。
- 重要性: 持続的な競争優位を維持するためには、企業は既存の資源や能力だけでなく、新しい資源や能力の構築も考慮する必要があります。
- 具体的な取り組み: 組織再編、既存の事業や製品の再評価、新しいパートナーシップやアライアンスの形成、技術や知識の取得などが含まれます。
ダイナミックケイパビリティを向上する上での課題
ダイナミックケイパビリティを向上させる際に直面する課題は様々な可能性があります。それらを把握した上で課題となる可能性を排除することができればダイナミックケイパビリティの向上の実現性は高まります。以下にその主な課題を解説します。
1.組織の慣習と抵抗
既存の組織文化や慣習が新しい取り組みや変更に抵抗することはよくあります。組織のメンバーが変化を受け入れるのが難しい場合、新しい能力の導入や既存の能力の変革が難しくなることがあります。
2.資源の制約
新しい能力を構築するためには、しばしば資金、時間、人材などの資源が必要です。これらの資源に制約がある場合、ダイナミックケイパビリティの向上が難しくなります。
3.情報の欠如
市場のトレンドや技術の進展に関する適切な情報が不足していると、組織は適切な戦略的決定を下すことが難しくなります。
4.組織の柔軟性の欠如
組織が硬直的であると、新しい知識や技術の導入、新しいプロセスや構造の採用が難しくなります。
5.リーダーシップの不在
効果的なリーダーシップは、組織の変革やダイナミックケイパビリティの構築において中心的な役割を果たします。リーダーのビジョンや指導力が不足していると、組織全体の取り組みが散漫になる可能性があります。
6.短期的な焦点
組織が短期的な利益やパフォーマンスに集中していると、長期的な視点での能力の構築や投資が後回しにされることがあります。
7.内部のコミュニケーション不足
組織内の異なる部門やチーム間でのコミュニケーションが不足していると、情報の共有や協力がうまく行われず、組織全体としてのダイナミックケイパビリティの向上が難しくなります。
ダイナミックケイパビリティの事例
ダイナミックケイパビリティの考え方に基づいて適応し、変革を進めている企業は数多く存在します。そのような企業の代表的な事例をいくつかご紹介します。
Apple
- Sensing: 2000年代初頭、デジタル音楽市場の変革を察知。
- Seizing: iPodおよびiTunesを導入し、音楽業界を変革。
- Transforming: その後、iPhoneやiPadを導入し、携帯電話やタブレット市場へと進出。
Netflix
- Sensing: オンラインメディア配信の潜在的な市場を早期に察知。
- Seizing: DVDレンタルからストリーミングサービスへの移行。
- Transforming: オリジナルコンテンツの制作を開始し、メディア製作会社へと変革。
Amazon
- Sensing: オンラインショッピングの成長と、クラウドコンピューティングの可能性を察知。
- Seizing: オンライン書籍販売から、あらゆる商品のオンラインマーケットプレイスへと拡大。
- Transforming: Amazon Web Services (AWS)を通じてクラウドサービス市場に進出。
また、ダイナミックケイパビリティの事例として広く知られている日本企業に富士フォルムがあります。
デジタルカメラの普及に伴い、フィルムの需要が急速に減少した2000年代初頭、多くのフィルムメーカーが苦しんだ中、富士フィルムはその事業ポートフォリオをうまく変革し、継続的な成長を達成しました。
富士フィルム
Sensing:
- デジタルカメラの急速な普及と、フィルムの需要減少を早期に察知。
- その他の市場や技術の潜在的な機会を探るための研究と分析を行った。
Seizing
- フィルム製造技術や化学技術を活かして、新しい市場や製品への展開を模索。
- 例えば、フィルムのコーティング技術を応用して、液晶ディスプレイの材料や医療分野の画像診断機器などの開発を進めた。
Transforming
- フィルム事業を中心とした従来の事業構造から、より多角的な事業ポートフォリオへと変革。
- 医薬品、美容・健康関連製品、印刷関連事業など、多岐にわたる新しい市場への進出を果たした。
富士フィルムの事例は、企業が固有の技術や知識を活かして、変化する市場環境に柔軟に対応する方法を示しています。また、単に新しい市場への進出だけでなく、核となる技術や能力の再評価と、それを異なる文脈での適用の可能性を探ることの重要性を示しています。
Nokia(逆の事例としての参考)
- Sensing: スマートフォン市場の変革を十分に察知できなかった。
- Seizing: iPhoneやAndroidによる変革に遅れをとる。
- Transforming: 最終的にスマートフォン事業をMicrosoftに売却し、その後は通信機器市場に焦点を絞る方針を採用。

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