損失回避の理論 | 行動経済学「プロスペクト理論」のマーケティングへの活用

目次

プロスペクト理論の概要

行動経済学のプロスペクト理論とは、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーという心理学者によって1979年に提唱されました。人は損失を避けたいと思うあまり、合理的ではない選択をしてしまうという意思決定に関する理論です。

プロスペクト理論についてはこちらの記事(ビジネスで活用できるプロスペクト理論とは?)で詳しく解説しています。

我々は損失を避けたいという気持ちが無意識の中で意思決定に大きく影響を与えています。この心理効果を理解した上でマーケティング戦略を考えた場合、様々なケースで活用ができることがわかります。今回は、プロスペクト理論をマーケティングへの活用例をいくつかご紹介します。

マーケティングへの活用例

それでは、プロスペクト理論のマーケティングの活用例を解説します。

1.無料・割引キャンペーン

無料や割引キャンペーンは、プロスペクト理論の概念をマーケティングに応用する典型的な例です。これらのキャンペーンは、主に損失回避の原則とフレーミング効果を利用して、消費者の購買行動に影響を与えます。

①損失回避の原則

無料や割引キャンペーンは、「期間限定」や「在庫限り」といった条件を設けることが多いです。これにより、「この機会を逃すと、得られるはずだった割引や特典を失う」という消費者の心理を刺激します。プロスペクト理論によれば、人々は損失を避けようとする強い傾向があるため、こうしたキャンペーンは消費者に行動を促す強力な動機付けとなります。

②フレーミング効果

「無料」や「割引」は非常にポジティブなフレーミングです。これらの言葉は、消費者にとって大きな魅力となり、特に「無料」は最も強力な動機付けの一つとされています。消費者は「無料」や「割引」のオファーを見ると、通常価格に戻る前にその商品やサービスを「得る」必要があると感じます。

③参照点の変化

無料や割引キャンペーンは消費者の参照点を変えます。たとえば、通常価格が1000円の商品が「半額」で販売されている場合、消費者は500円で購入できるという新たな参照点を持ちます。このため、キャンペーン終了後に元の価格に戻ると、「高くなった」と感じるため、キャンペーン中に購入を決断する傾向が強まります。

無料や割引キャンペーンは、消費者にとっての「得する感覚」と「損失を避けたいという心理」の両方を刺激するため、購買意欲を効果的に高める戦略として広く用いられています。プロスペクト理論の視点から見ると、これらのキャンペーンは消費者の非合理的な側面を巧みに利用して、購入を促す強力なツールです。

2.期間限定・人数限定

「先着○名様」や「期間限定特別セール」といったキャンペーンは、プロスペクト理論の概念、特に損失回避の原則とフレーミング効果を効果的に活用しています。これらのキャンペーンが消費者の意思決定にどのように影響を与えるかを見てみましょう。

①損失回避の原則

「先着○名様」や「期間限定特別セール」は、利用可能なチャンスが限られているという印象を消費者に与えます。このような限定性は、消費者に「この機会を逃すと、得られるはずの割引や特典を失う」という感覚を生じさせます。プロスペクト理論によると、人々は損失を避けるために行動を起こす傾向が強いです。したがって、期間や数量が限定されているという状況は、消費者が購入を急ぐ強い動機となります。

②フレーミング効果

これらのキャンペーンは、通常「特別な機会」としてフレーム化されます。例えば、「特別セール」や「先着順」などの表現は、通常の購入体験よりも優れたものとして提示され、消費者にとって特別感や独占感を生み出します。このようなポジティブなフレーミングは、顧客に対して、今すぐにでも行動を起こさなければ、特別なメリットを逃すことになるという印象を与えます。

③緊急感の創出

期間限定や先着順のキャンペーンは、緊急感を創出します。この「急ぐべき」という感覚は、消費者が即時に行動を起こすことを促します。人々は、期間が終わる前や商品がなくなる前に購入することを強く意識するようになります。

このように、期間限定や人数限定のキャンペーンは、消費者の損失回避の心理、特別な機会としてのフレーミング、そして緊急感の創出を通じて、購買行動を促進する効果的なマーケティング戦略です。プロスペクト理論の視点から見ると、これらのキャンペーンは消費者の非合理的な行動傾向を巧みに利用して、購入を促す強力なツールとなっています。

3.優遇情報

「チラシを持参した人だけ10%オフ」と「〇〇までに申し込むと特典を受け取れる」といった優遇情報は、プロスペクト理論の観点から見ると非常に興味深い戦略です。これらの戦略は主に損失回避の原則とフレーミング効果を活用しています。

①損失回避の原則

これらの優遇情報は、「特定の条件を満たすことで利点を得られる」というメッセージを消費者に伝えます。しかし、プロスペクト理論によると、人々は損失を避けるために利益を得ることよりも、損失を回避することに重きを置きます。

そのため、「チラシを持参しないと割引を逃す」や「期限までに申し込まないと特典を受けられない」といった形で情報が処理されることが多いです。このように損失回避を刺激することで、消費者は特定の行動(チラシの持参や期限内の申込み)を取るよう促されます。

②フレーミング効果

情報の提示方法が重要です。「10%オフ」というポジティブなフレーミングは、顧客にとって魅力的なオファーとして捉えられます。一方で、「特典を受け取れる」というフレーミングは、特典を得るチャンスを逃す可能性(損失)を意識させ、行動を促します。

これらの優遇情報は、消費者の意思決定に影響を与えるために、損失を避けたいという心理と情報のフレーミングの効果を巧みに利用しています。マーケティングでは、このような戦略を採用することで、顧客の購買行動を効果的に促進することができるのです。

4.ポイント付与

商品購入時にポイントを付与する戦略は、プロスペクト理論の観点から見ると、いくつかの重要な要素を活用しています。特に、損失回避の原則、フレーミング効果、参照点の変化などが関係しています。

①損失回避の原則

ポイントを利用することで、「ポイントを得る機会を逃す」という損失の感覚を顧客に抱かせます。消費者はポイントを「得られるもの」として見るだけでなく、「得られない場合の損失」としても捉えます。

これは、購入することでポイントを「得られる」というよりも、購入しないことでポイントを「失う」と感じることが多いため、購入意欲を刺激します。

②フレーミング効果

ポイント付与は通常、利益を得る(プラスの報酬)としてフレーム化されます。「○○円ごとに△ポイント付与」という形で提示されると、顧客はそのポイントを追加の価値、すなわち「得をする」ものと捉えます。

また、ポイントがある程度貯まると割引や特典に交換できるため、この「将来の利益」に対してもポジティブな反応を示す傾向があります。

③参照点の変化

ポイントシステムは消費者の参照点を変化させます。ポイントが付与されると、顧客はそのポイントを含めて商品やサービスの「価値」を評価するようになります。このため、同じ商品やサービスでも、ポイントが付与される場合とされない場合では、顧客の価値評価が異なることがあります。

このように、ポイント付与戦略はプロスペクト理論の概念を効果的に活用し、消費者の購買行動に影響を与える強力な手段となり得ます。消費者は単に商品やサービスを購入するだけでなく、追加のポイント獲得という「見える形での利益」を重視する傾向があり、これが購買意欲を促進する要因となっています。

消費者の意思決定に影響を与えるために、損失を避けたいという心理と情報のフレーミングの効果を巧みに利用しています。マーケティングでは、このような戦略を採用することで、顧客の購買行動を効果的に促進することができるのです。

5.返金保証・修理保証

返金保証や修理保証は、プロスペクト理論の観点から見ると、消費者の損失回避の原則を特に効果的に利用している戦略です。これらの保証は、消費者のリスク回避行動と信頼構築に影響を与えます。

①損失回避の原則

返金保証や修理保証は、商品購入時のリスクを軽減します。消費者は通常、新しい商品やサービスを購入する際に、品質や満足度に対する不確実性を感じます。

これらの保証は、もし商品やサービスが期待に応えなかった場合の損失(金銭的、時間的、精神的な損失)を回避する手段として機能します。プロスペクト理論によれば、人々は損失を避けようとする強い傾向があり、このような保証はその心理をうまく利用して、購買意欲を高めます。

②信頼の構築

返金保証や修理保証は、消費者との信頼関係を築くのに役立ちます。これらの保証を提供することで、企業は自社の商品やサービスに対する自信を示し、消費者に安心感を提供します。この信頼感は、消費者がリスクを感じにくくなり、購入に対する抵抗感を減らすのに寄与します。

③参照点の変化

返金保証や修理保証を提供することにより、消費者の商品やサービスに対する参照点が変わります。保証の存在は、価値ある購入決定と捉えられるため、消費者は購入に対してより肯定的な見方をします。このように、保証は商品やサービスの全体的な価値を高める要因となり得ます。

返金保証や修理保証は、消費者が購入時に感じる潜在的なリスクや損失の不安を減少させることで、より安心して購入を決断できるようにする戦略です。プロスペクト理論の観点から見ると、これらの保証は消費者の損失回避の心理を巧みに利用し、購買意欲を促進する有効な方法と言えます。

まとめ

以上のように、人の損失を回避したいという心理を軸に考えることで、精度の高いマーケティング戦略を検討することができます。

また現在上記にある施策をすでに取り組んでいる企業なら、競合他社がやっているから自社も取り組もうといった理由ではなく、そのマーケティング施策を実行する根拠や意味を説明することができますので是非プロスペクト理論をマーケティングに活用してください。

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    この記事を書いた人

    経営戦略、事業戦略、マーケティング戦略など戦略領域でスタートアップから大企業まで600社以上の支援実績を持つ。

    経営学、行動経済学などのアカデミズムの知をビジネスに実践的に取り入れたコンサルティングを得意とする。

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