消費者の心をつかむ:メンタルアカウンティングの効果的な活用法

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心理会計「メンタルアカウンティング」とは?

メンタルアカウンティングは、人々が金銭的な取引を精神的にどのように分類し、評価するかについての理論で行動経済学者で2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授によって提唱されました。

この理論は人々がお金に関する意思決定を行う際に、理論上の最適な決定ではなく、個々の精神的なアカウントや予算に基づいて決定を行うことを示しています。

研究者による研究で「劇場の10ドル」という研究が行われました。あなたも是非考えてみてください。

質問①

「あなたが劇場でチケットを買おうとしたら財布に入っていたはずの10ドル札が1枚なくなっていたことに気づきました。あなたは10ドル出してチケットを買いますか?」

この質問には88%の人が買うと回答しました。

それでは次の質問はどうでしょうか?

質問②

「あなたは事前にチケットを10ドル支払って購入していました。劇場に着いて受付でチケットを出そうとしたら忘れてきたことに気が付きました。あなたは10ドル払って当日券を買いますか?」

この質問には、買うと答えた人は46%で半分以上の人は買わないと答えました。

このように2つの質問いずれも失くしたお金の価値は10ドルと変わりはありません。しかし、同じ10ドルでも質問1と質問2では行動が変わっております。つまり、10ドルに対して感じている心の会計が異なっているということです。

メンタルアカウンティングとは、人が持つ心の会計、つまり心の中で何のためのお金か無意識に仕分けされていることです。上記の例では、被験者の心の中には無意識に「劇に使うお金」と仕分けされています。

前者の質問の場合、失くした10ドルは劇とは関係のない10ドルです。失くしたことに対するショックはあるものの、それと「劇のために使う10ドル」とは別会計として考えます。

従って、10ドルを払うことに抵抗はありませんでした。

しかし、後者の質問の場合は、すでに「劇のために使う10ドル」は使ってしまっている状況です。故に、もう10ドルを払うことは、劇の為にさらに追加で10ドル出すことになってしまい、そこに心理的な抵抗が生まれるのです。

合理的に考えれば、損をしたのは同じ10ドルですから行動が変わるというのは非合理的です。しかし、実際には人はこのように非合理的な行動をするのです。

このように私たちは心の中で無意識に何に使うお金なのかを仕分けし、仕分けすることによって同じ金額でも価値感を変えることをメンタルアカウンティングと言います。

日常生活でのメンタルアカウンティング例

例えば、ボーナスなど臨時収入で得た収入は給与のような定期的な収入とは異なり、ボーナスや臨時収入を「特別なお金」として扱い、通常よりも自由に使う傾向があります。

これは、ボーナスを「楽しいことに使う」というメンタルアカウントに入れてしまう表れです。一方でレジャーや車を購入する為など特定の目的で貯金をする場合、そのお金はその目的以外には使用しにくくなります。たとえ他の重要な支出があっても、その目的のための貯金は使いたくないと感じることが多いです。

メンタルアカウンティングのビジネスへの応用例

それでは、メンタルアカウンティングのビジネスやマーケティングへの応用について解説します。メンタルアカウンティングの理解を深めることでビジネスやマーケティングの戦略が消費者の意思決定プロセスに深く根差し、より効果的なアプローチを取ることが可能になります。

価格設定戦略

商品やサービスの価格を決定する際にメンタルアカウンティングは消費者が価格に対してどのように反応するかを理解するのに役立ちます。

例えば、消費者が高価な商品を購入する際に、分割払いの支払い方法を提供することで、支払いがより管理しやすいと感じることがあります。

プロモーションと特典

顧客が特定の製品に対して特別な価値を感じるようなプロモーションや特典を提供することで、消費者のメンタルアカウンティングを利用することができます。例えば、特定の商品の購入に「限定版の追加アイテム」を付けると、その商品に対する精神的価値が高まります。

バンドル販売

複数の製品を一緒にバンドルして販売することで、消費者は個々の製品の価値ではなく、パッケージ全体の価値を考えます。例えば、カメラとレンズをセットで割引価格で販売すると、消費者は「お得な取引」と捉え、より購入しやすくなります。

ロイヤルティプログラム

ポイントシステムや会員特典を提供することで、顧客はそのブランドに対してより高い精神的価値を感じるようになります。例えば、特定の金額を使うごとにポイントが貯まり、一定のポイントで特別な報酬を得られるようなシステムです。

期間限定オファー

期間限定のセールやプロモーションは、消費者の緊急感を刺激し、「今買わなければ損をする」という感覚を生み出します。例えば、週末限定で特定の商品に大幅割引を適用することで、通常よりも多くの購入を促すことができます。

カスタマイズオプション

製品やサービスをカスタマイズできるオプションを提供することで、消費者はその製品に対して個人的な価値を感じます。例えば、スマートフォンのケースを自分の好きなデザインでカスタマイズできるようにすることです。

これらの施策は、消費者の購買意欲を高め、製品に対する精神的な価値を上げることができます。メンタルアカウンティングを理解し、適切に応用することで、企業は効果的なマーケティング戦略を展開することができるようになります。

メンタルアカウンティングをビジネスで活用する上での注意点

メンタルアカウンティングをビジネスに活用する際に気を付けるべき注意点があります。これらの注意点は、消費者からの信頼を損わず、倫理的かつ持続性のあるビジネスを展開するために重要です。

1.透明性と正直さ

メンタルアカウンティングを利用する際は、顧客に対して誤解を与えたり、誤った情報を提供したりしないように注意する必要があります。例えば、バンドル販売の際は、個別商品の価格との比較を明確にする必要があります。

2.価値の提供

プロモーションや特典を提供する際には、実際に顧客にとっての「価値」があることが前提です。偽の割引や無意味な特典は、長期的な顧客との関係性構築に悪影響を及ぼす可能性があります。

3.消費者の過剰な誘導を避ける

メンタルアカウンティングの原理を利用して消費者を過剰に誘導することは、倫理的な問題を引き起こすことがあります。例えば、無理な買い物を促すようなクレジットの提供は、消費者の財務的健全性を損なうことにつながります。

4.長期的なブランドイメージの保護

メンタルアカウンティングを活用することで短期的な売上増加に焦点を当てるあまり、企業の長期的な評判やブランドイメージを損なうような戦略は避けなければなりません。

5.消費者保護法規の遵守

すべてのマーケティング活動は、適用される消費者保護法規や規制に準拠している必要があります。これは、不正な広告や誤解を招く表示を避けるために重要です。

これらの点に注意を払いながら、メンタルアカウンティングを活用することで、企業は消費者に対してポジティブな影響を与え、持続可能なビジネスを築くことが可能となります。

まとめ

以上、メンタルアカウンティングについて解説しました。

人は誰しも心の会計を持っており、仕分けしているのです。同じ金額でも価値が違う為に行動も変わります。このような人の認知の特性をビジネスやマーケティングに活用する場合の活用例を上げました。

人の意思決定は合理的ではないということを行動経済学の他の記事でも解説してますが、メンタルアカウンティングは人の購買行動の意思決定に関する領域で幅広く活用できます。

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    この記事を書いた人

    経営戦略、事業戦略、マーケティング戦略など戦略領域でスタートアップから大企業まで600社以上の支援実績を持つ。

    経営学、行動経済学などのアカデミズムの知をビジネスに実践的に取り入れたコンサルティングを得意とする。

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