VUCA時代にこそ必要なセンスメイキング理論とは?

不確実性の高いビジネス環境においても組織が一丸となり足並みを揃えて目標やあるべき姿の実現へ向け進んでいく。これは理想ではなく、センスメイキング理論で実現できます。今回は、センスメイキング理論について徹底解説します。

目次

センスメイキング理論とは?

センスメイキング理論とは、人間が経験から意味を与える過程を言う理論です。不測の事態や意図的な変化に対して、どのように理解や行動を起こすかを考えるための概念です。この理論は特に、組織心理学者カール・ワイクによって広く知られるようになりました。

企業があるべき姿の実現をする為には、あるべき方向へ向かって組織が足並みを揃えて進むことが不可欠です。足並みを揃えて進む為には組織や個人があるべき姿、つまり「未来」を同じようにイメージしている必要があります。

センスメイキング理論とは、未来を創造する為の組織を一つにまとめる上で大変重要な理論です。

センスメイキングの7つの構成要素

1. アイデンティティの構築プロセス

センスメイキングは、個人が自らをどのように見ているか、そしてそのアイデンティティがどのように周囲の環境と相互作用するかに依存します。

2. 回顧的プロセス

個人や組織は、過去の出来事を振り返りながら意味を構築します。この過程では、現在の状況を理解するために過去の経験をどのように解釈するかが重要になります。

3. 行為プロセス

行為を通して環境に働きかけることができます。そして同時にその環境もまた行為者を創造するという相互関係が構築されます。

4. 社会的構築プロセス

意味の構築は社会的なプロセスであり、他人との対話を通じて進行します。この対話によって、個々の認識や行動が形成されます。

5. 持続的なプロセス

センスメイキングは一度限りの出来事ではなく、継続的なプロセスです。環境や情報が変わるにつれて、人々は常に新しい情報を解釈し、適応していきます。

6. 有用性に基づくフレーミングプロセス

情報はその有用性に基づいて選ばれ、解釈されます。つまり、現在の目標や課題に対してどれだけ有効かという観点から情報がフレーム化され行動が導き出されます。

7. 抽象化と具体化プロセス

抽象的な概念や大局的な視点と具体的なデータや詳細情報との間でバランスを取りながら、確実性や理解を深めていきます。

このように、センスメイキング理論は、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代において、組織や個人が自律的なイノベーションと行動を促すための非常に有効な考え方です。

センスメイキングの必要性

それでは、センスメイキングが現在のビジネスになぜ必要なのかについて解説します。センスメイキングの必要性は、特に不確実性や複雑性の高い状況で顕著になります。

これらの状況においては、情報が不完全であったり、矛盾していたりすることが多く、意思決定者が正確な判断を下すためには、現状を適切に理解し、解釈することが求められます。

センスメイキングの必要性は具体的に次のようなポイントがあります。

環境の不確実性に対処するため

変化が速く、予測が困難な環境では、組織や個人は新しい情報を迅速に解釈し、適応する必要があります。センスメイキングはこのような状況で役立ちます。

複雑な情報の整理

多量の情報やデータから重要な情報を選び出し、それを有意義な形で組み合わせることが求められる際、センスメイキングは意思決定プロセスに役立ちます。

意思決定の基盤となる共有理解の構築

センスメイキングは、チームや組織内での共有理解や共有規範を構築するのに役立ちます。これにより、一貫した行動や協調された取り組みが促進されます。

危機管理

突発的な事態や危機が発生した場合、迅速かつ効果的に対応するためには、状況を正確に把握し、理解することが必須です。センスメイキングは危機対応の初期段階で重要な役割を果たします。

変化への適応と革新

新たな技術や市場の変化に適応し、革新を推進するためには、組織が外部の変化をどのように解釈し、内部のプロセスに統合するかが重要です。センスメイキングはこのプロセスを効果的に管理する手法を提供します。

① 組織文化の形成と変革

組織文化は、共有された意味と経験に基づいて形成されます。センスメイキングは組織文化の変革やその進化を支えるために利用されることがあります。

② 環境の変化への対応

特にビジネス環境の急速な変化や予期せぬ事態に直面した際、センスメイキングは組織が適切に対応し、戦略を調整するのに役立ちます。

③ 意思決定の質の向上

より良い意思決定を行うためには、状況を正確に理解し、それに基づいた行動計画を立てることが重要です。

④ 組織の学習と適応

センスメイキングは組織が過去の経験から学び、将来の挑戦に備えるのを助けます。

これらの理由から、センスメイキングはビジネスリーダー、マネージャー、政策立案者など多くの人々にとって重要なスキルとされています。

センスメイキングのメリット

センスメイキングには、次のようなメリットがあります。

前向きな姿勢を保てる

センスメイキングは、過去の経験や現象に対して意味づけを行うことで、不安や困難に対しても前向きに考えられるようになります。自分たちがやるべきことを納得し、同じ方向を向くことで、モチベーションや自信を高めることができます。

創造的なアイデアを生み出せる

センスメイキングは、行動しながら意味づけを行うことで、新しいチャレンジをし続けることができます。試行錯誤することで、既存の枠組みにとらわれない創造的なアイデアを生み出すことができます。

組織の一体感を高める

センスメイキングは、他者との関係性やシンボリックな相互作用が意味づけに影響する社会的なプロセスです。全員が腹落ちするストーリーを保持し、共有することで、組織の一体感や信頼感を高めることができます

センスメイキングの活用事例

センスメイキングはビジネスで主に下記のような活用が効果的です。

危機管理

突発的な危機(例えば、自然災害や企業のスキャンダル)に直面した際、センスメイキングは組織が状況を迅速に理解し、適切な対応策を策定するのに役立ちます。

組織変革

組織が大きな変革を進める際、センスメイキングは従業員に変革の必要性を理解させ、新しい方向性を受け入れやすくします。

戦略策定

競争環境の変化や新しい市場機会に応じて、センスメイキングは企業が適切な戦略を策定するのに役立ちます。

センスメイキング理論は、組織や個人が不確実で複雑な状況に対処する際の指針を提供し、より良い意思決定と適応のための基盤を築きます。

センスメイキングのビジネスでの活用事例

センスメイキングは、ビジネスにおいても様々なシーンで活用できる考え方です。ここでは、いくつかの事例を紹介します。

陶芸家の事例

優れた陶芸家は、最初に何を作るかが自分では分からず、泥をこねたり轆轤を回したりしているうちに、次第に自分の作りたいものが分かってくると言われます。

これは、行動しながら意味づけを行うセンスメイキングのプロセスです。ビジネスにおいても、最初に細かい計画を立てるのではなく、試行錯誤しながら方向性を見極めることが重要です。

雪山遭難の事例

ハンガリー軍の偵察隊が、アルプス山脈の雪山で遭難し、テントで死を意識し始めたとき、一人の隊員がポケットから地図を見つけます。隊員たちはこれで帰れるはずだと思い、下山することを決意します。

地図を手掛かりにおおまかに方向を見極めながら進みました。彼らは無事に下山できました。しかしその地図はアルプス山脈ではなく、ピレネー山脈の地図だったのです。つまり、全員が決意し、同じ方向を向いて進めば、正しい手順が示されていなくても、試行錯誤しながら成し遂げられるということを示唆しています。

学校向け製品販売会社の事例

学校向けに製品を販売する会社が、子どもの数の減少によって売上に悪影響が出ている状況にあります。なんとか現状を打開しようとユーザーへヒアリングを実施したところ、「学校でこの製品を使うとワクワクした」などの感想が聞こえました。

そこで、自社製品の意味を「勉強を楽しくするもの」と解釈し、全社的に家庭への直接販売を強化する方針を立て、従業員も納得感を持って行動した結果、ビジネスモデルの転換に成功しました。

このように、センスメイキングは、不確実な状況や変化に対応するために有効な理論です。

センスメイキングのマーケティングへの活用

センスメイキング理論は、マーケティング分野でも活用することができます。センスメイキング理論をマーケティングにおいて活用する事例をいくつかご紹介します。

①ブランドストーリーテリング

センスメイキングの理論は、ブランドストーリーテリングにおいて重要な要素となります。ブランドは顧客に対して、自身の存在や提供する価値を意味的に伝える必要があります。

センスメイキングのプロセスを活用することで、ブランドの起源、ビジョン、ユーザーの体験などを組み合わせ、魅力的なストーリーを構築することができます。

②ニーズと顧客理解

センスメイキングの理論を用いることで、顧客のニーズや行動の背後にある意味を理解することができます。マーケティングリサーチや顧客インサイトの収集において、顧客の逆説的な感じ方や前向きな感じ方を探求することで、より深い理解を得ることができます。

③ブランド戦略の構築

センスメイキング理論は、ブランドの意味とイメージを構築する上で役立ちます。マーケティング担当者は、顧客が製品やサービスにどのような意味や価値を見出すのかを理解する必要があります。

センスメイキングの視点から、顧客の心理や感情に訴えるブランドメッセージやストーリーテリングを展開し、ブランドの一貫性を確保することが重要です。

④マーケットインサイトの発掘

センスメイキング理論は、マーケットインサイトの発掘にも役立ちます。

マーケティング担当者は、顧客の行動や意識の変化を理解し、なぜそれが起こったのかを分析する必要があります。センスメイキングの手法を活用して、顧客がなぜある商品を選ぶのか、どのような要因が購買行動に影響を与えるのかを把握し、戦略立案に活かすことができます。

⑤プロダクト開発とデザイン

センスメイキング理論は、プロダクト開発やデザインにおいても有用です。製品やサービスを開発する際には、顧客のニーズや意図を理解し、それに合致するデザインや機能を提供する必要があります。

センスメイキングのアプローチを用いて、顧客のフィードバックや行動から得られる情報を解釈し、製品の改善や革新につなげることができます。

⑥マーケティングコミュニケーション戦略

センスメイキング理論は、マーケティングコミュニケーション戦略の策定にも役立ちます。顧客は情報を受け取った後、その情報を自分自身のコンテクストや価値観と照らし合わせて解釈します。

センスメイキングの観点から、顧客が情報をどのように受け取り、理解するのかを考慮し、効果的なコミュニケーション戦略を展開することが重要です。

まとめ

センスメイキング理論は、不確実性が高く、先行きが見通しにくい、環境の変化が速い現在、特に重要な理論です。

厳しい環境にあっても、危機を乗り越え、ビジョンの実現を成し遂げる為には組織が一丸となり同じベクトルへ向かう推進力が不可欠です。このような環境だからこそ、経営者は未来のビジョンを語ることが重要なのです。

是非自社の経営にセンスメイキングを取り入れていただきたい。

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    この記事を書いた人

    経営戦略、事業戦略、マーケティング戦略など戦略領域でスタートアップから大企業まで600社以上の支援実績を持つ。

    経営学、行動経済学などのアカデミズムの知をビジネスに実践的に取り入れたコンサルティングを得意とする。

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